社会福祉を牽引する人物② 笹山周作・勝則兄弟-社会福祉法人の経営を論じ合う-

社会福祉を牽引する人物②
笹山周作・勝則兄弟-社会福祉法人の経営を論じ合う-

鼎談者:笹山周作・笹山勝則・塚口伍喜夫
編集者:笹山博司・辻尾朋子

鼎談の目的

この鼎談では次のような事柄について論じ合いたいと考えています。その一つは、社会福祉法人の経営とは、そもそも何かということ。その二つ目は、社会福祉法人は、非営利の法人ですが、営利法人が展開する福祉サービス提供事業との棲み分けはできるのかということ。その三つ目は、二つ目とも関連するのですが、どのような背景で「経営」という概念が強調されることになったのかということ。四つ目には、キヤノングローバル研究所が言う「剰余金」とは何を根拠にしたものなのか、ということを論じていただいきたいと思います。
現実の問題に入りますと、介護従事者の給与水準は一般の給与水準と比較すると10~20%ほど低いです。その分を補てんすると剰余金なるものは全くなくなります。
社会福祉法人夢工房が1億4千万円程度を不正流用し、兵庫県の指導で新しい役員体制に変わり、新たな出発をしたことが報道されています。この不正流用、私的流用ですが、これを許してきた役員はどんな責任を取るのかが問われています。兵庫県の社会福祉法人は昔からいろいろな不祥事を引き起こしてきました。不祥事の百貨店みたいなところがあります。この辺をどのように考えていくのか。五つ目は、社会福祉法人は借金経営がほとんどです。周作さんがおっしゃったように、今度の社会福祉法の一部改正は借金経営を助長するようなところがあり、本当にそれでよいのか、10年後の社会福祉法人の経営環境は、どう想定したらよいのかを論じていきたいのです。編集者の笹山博司君と辻尾朋子さんは、読者の立場から必要に応じてコメントを差し挟んでいただきます。


左から笹山勝則氏・塚口伍喜夫氏・笹山周作氏

一部抜粋

塚口伍喜夫氏

塚口:入局3年目に、岸信介首相の肝いりで作られた「日本青年海外派遣事業」への応募を朝倉会長から勧められ、自信がない中で受験しました。英語の会話・ディスクテーション、簿記、論文などの試験があり、75名が受験していました。そのうち兵庫県は3名の派遣者が決まるという厳しい試験でしたが、偶然に合格しました。派遣先は北米・カナダ、オセアニア、東南アジア、ヨーロッパでした。私は北米・カナダを希望し、御殿場の国立青年の家で約1か月の研修を受け、同年の9月から11月末までの3か月の旅行を体験しました。行きは客船で横浜からハワイ経由でサンフランシスコまでで、そこを起点に、北米・カナダの20都市を訪問し、それぞれのテーマに沿った研究視察をしました。この派遣事業のスポンサー当時の総理府、旅行経費のほかに1日4ドルの活動費を貰いました。当時のメンバーで「4ドル会」なるものを結成し、毎年1回の会合は今でも続いています。
アメリカの社会保障は世界の先進国の中でも非常に遅れています。お金をかけない救済方法として援助技術が発達しました。その援助技術は日本にも輸出され、日本流に根付いています。貧困者救済などにお金をかけない反面、富裕者などからの寄付は毎年多額に上り、連邦政府の年間社会福祉費に近いくらいの額だと言われています。
その社協は、民間福祉推進の総括者としての役割を果たしてきています。
私は、社協最後の14年間は事務局長の任務をいただきましたが、この役割が果たせたのは、歴代の会長の背中を見て成長してきたからではないかと思っています。初代会長の朝倉斯道氏は文化人と言われる人で、文学、芸術、演劇、絵画、陶器、風物など、どんな分野にも精通しておられ、教養がその人の品格を創り出すことを自ら示しておられました。2代目会長の関外余男氏は、元内務官僚で、終戦時は埼玉県知事まで務められた方でした。「生半可な理解で物事を進めるな」が信条の方でした。
3代目会長は元兵庫県知事、後には参議院議員として環境大臣までされた金井元彦氏でした。この方たちは、みな大変な読書家であり、常に先を見通して物事を判断されていました。私の仕事の流儀は、こうした方たちから学んだから身についた流儀ともいえます。


笹山勝則氏

勝則:私が体を悪くして引退し、ゆっくりしていた58歳の時に、兄から社会福祉の会計のことについて問われたことがきっかけです。正直なところ、私がやってきたのはグローバルな純粋な日本および米国の会計です。社会福祉の会計は、公会計と言いますが、我々の業界ではそれほど先端を走る会計領域ではなく、それは、町の会計士に任せておけば大丈夫だと思っていました。近年、安倍内閣の下、地域活性化、格差社会がもたらす貧困、災害等を支援するなど日本の社会がどんどん変わってきていることは感じ取っていました。日本の公認会計士協会も新しく公会計という組織が出来上がりました。それがついこの間です。学校法人が初めに公会計になったと思います。それまでは大幅帳簿記だけで、借方、貸方がありませんでした。全部、現金収支でした。もう20年前になりますが、運用は銀行任せで、ある決算期末に大きな損失を出して、大きく新聞記事になりました。
今回、夢工房の事件がありましたけれども、そのようなことがきっかけで社会福祉法人も公会計のカテゴリーの重要な位置に入ってきました。ところが、監督官庁が新しい公益法人会計なるものをわかっていないようです。無理もありません。公益法人会計は、そういう意味では監督官庁も含めて十分に普遍化しているのかと言えば、そうでもないように感じます。

塚口:勝則さんはその立場からキヤノングローバル研究所が言っていることはおかしいのではないかと論陣を張られていました。

勝則:確かに今見れば、数字の基本がわかっていない人が書いたように思います。剰余金の概念は、あくまで損益および収入・支出の差の累積であり、確かに内部留保金の一部ですが、剰余金=余裕財産ではありません。ここは絶対に譲れないところです。今回の社会福祉法の一部改正においても剰余金の概念が余裕資産、余裕財産と表現が変わってきて最終的に社会福祉充実残額の表現に収まりました。


笹山周作氏

周作:社会福祉充実残高が法律で縛られると法人経営者のモチベーションは上がりません。今回の改正で一番の問題はそこです。社会福祉法人がその経営努力で剰余金を出せば、自らの判断で自主的に地域のために貢献するのはよいと思います。しかし、法律でいう社会福祉充実計画は、県や市町村に計画書を出して、許可をもらうというものです。法人と職員が汗水たらしてためたお金、それは、災害や施設のメンテナンスや増改築のためにためたお金を地域貢献に使うのになぜ行政の許可がいるのか分かりません。こんな高飛車な法律がありますか。

周作:社会福祉法人が解散するときは、原則、基本財産は国の帰属になります。剰余金をどのタイミングで何に使うかは経営の手腕だと思います。ところが、剰余金を充実残額として5年以内に全部使いなさい、その計画書を出しなさい、行政が認めてあげるから、という構図はまちがっています。もう一つは、充実残高の算定の仕方を見ると、借金をしながら働かなければならないようになっています。借金がゼロで充実残高がたくさん残っているのならわかります。厚労省が示す計算方法では、借金があるままで充実残額を出す計算方式です。充実残額は借金返済には充てられません。見方を変えれば、減価償却累計相当の資金による借金返済は認めるが、施設の更新・増設は各自の借金債務で実施せざるを得ない計算になっています。


〔コメント〕笹山博司

社会福祉法人と株式会社との違いを考えないといけないと思います。補助金をもらっていますので、モノを言い続けることは、社会福祉法人では難しいかと感じます。むしろ、国から補助金を受けないことで、目指すべき介護を行いやすいのではないでしょうか。
会計に関しては、社会福祉法人会計が複雑すぎると思います。これは、外部の人が見ても分かりにくいと思います。今だに社会福祉法人は、すごく儲かっているイメージを持っている人がいるので、勘違いする人もいると思います。


〔コメント〕辻尾朋子

福祉充実計画の許可を市町村が出すということは、市町村に専門的にわかる人がいないといけないと思うのですがその整備は進んでいるのでしょうか。また、地域の福祉課題に継続が難しい社会福祉充実計画で対応することは、本当に住民のためのサービスとなるのでしょうか。もう一度住民の立場に立って考えなければならないと思います。