今回の社会福祉法の改正について、私の意見を述べたいと思います。その前に、日本で初めて介護保険法が成立した1997年の時点での介護保険法の基本的な考え方について少し言及したいと思います。
介護保険法成立時の介護保険法は、在宅中心主義を掲げました。なぜ在宅中心主義を掲げたかと言いますと、私の推測ですが、スウェーデン、デンマークを参考にしたからです。この時に最大の誤りがあったと思います。なぜなら、日本の家庭はどこの家庭も既に核家族が進んでいて都市に人口が集中していました。介護において、最も重視すべきことは重度の認知症の人や要介護度 3.4.5 の重度の人をどうするかをよく考えることではなかったかと思います。認知症や重度の方を在宅で家族が最期まで世話や介護が出来るのかということを深く考えておれば、在宅中心主義は生まれなかったと考えます。重度の認知症の人と要介護度 3.4.5 の人は、施設中心(特養を多く造る)で介護をするように考え、軽度の人は在宅中心で介護をするように考えて介護保険法を作るべきだったと私は考えています。特に都市部においてそれが必要であったと考えます。なぜならその当時は、土地代も安くて建設コストも安く、失業率も高かったので介護で働きたい人は沢山いました。介護保険法が施行されて16年後の今日、土地は高くて建設コストも高く人財はまったくいない状態で、これから介護施設を造っていく社会福祉法人はどのくらいいるのだろうかと心配しています。また、既に介護離職(親の介護のために会社を退職すること)や介護施設等で働く職員の人財不足が大きな問題となっていますが、これから10年~20年後が本当の介護保険制度の正念場となります。人口統計は政治や経済と違って99%正確に出ます。将来を見据え、利用者や職員の為となるような各種制度の改正が必要と考えます。
次に、今回の社会福祉法の改正はなぜ起こったのかを考えますと、それは2011年7月7日に日本経済新聞に掲載されたキャノングローバル戦略研究所の松山幸弘氏に端を発しています。松山氏の掲載した内容は、社会福祉法人が内部に留保金を沢山貯めているとのことでした。そして、それをトヨタ自動車等と比較したものでした。これはあきらかに間違い(減価償却について一切述べていないので会計を勉強していない私でもおかしいと思った。)なのを誰も反論しなかったのが原因と考えられます。それを、厚生労働省や財務省が利用して、今回の社会福祉法の改正へと進んで行ったということだと私は考えております。2016年3月28日にも日経新聞に再度松山氏の論文が掲載されましたが、これも又会計を勉強していない私が読んでも間違った論文を日本経済新聞は、掲載したものだとあきれるばかりです。
今回の社会福祉法の改正の内容については、経営組織のガバナンスの強化や事業運営の透明性の向上、財務規律の強化や地域における公益的な取組を実施する責務等いろいろ有りますが、私が最も重視する一番大きな問題は、社会福祉法人経営者のモチベーションについてです。経営者のモチベーションは、どのようなものなのかをよく考えないと、誰も新しい施設を造ったり介護の質を高めようと頑張ったり、地域貢献をしようと考えたりしません。いくら職員がそのようにしたいと思ったとしてもトップがそのようにしたいとの強い思いがないと出来ません。
第1点は社会福祉充実残額についてです。これは下記のようになっています。
社会福祉充実残額(資産-負債-基本金-国庫補助金等特別積立金=A
A- (①社会福祉法に基づく事業に活用している不動産②再生産に必要な財産(建替等)③必要な運転資金) =再投下対象財産
これを全国の社会福祉法人に当てはめてみますと、社会福祉充実残額が沢山残り再投下対象財産が出来る法人が出てくるように国は思っているのではないかと思いますが、殆どの法人は再投下対象財産が出て来ません。そして社会福祉施設等に再投下できるのは、その内15%~30%と現在は言われています。そうすると、補助金が約20%なので、借金を50%~65%しながら一方で地域貢献の為の支出をしなければなりません。そして又、その支出は地域協議会等を設けて承認を受けなければなりません。介護報酬は、全ての法人で同一の介護報酬です。それを職員と経営者で一生懸命汗水流して頑張ってお金を残します。そのお金を一方で借金して施設を造り、一方で地域貢献の為にお金の支出を果たして誰がするでしょうか。職員も反対します。社会福祉法人が地域に貢献することは当然必要ですが、それを法律で細かく決めることは、経営者や職員のモチベーションを全然考えていないとしか言うほかありません。
昨日アメリカ大統領選でドナルド・トランプ氏が勝ちました。6月には、イギリスがEUから離脱の国民投票があり離脱が決定しました。これだけ不確実性の高い世の中に於いて、借金を膨らませてまで、まともな経営者は法人経営をしないと考えます。世界一の投資家ウォーレン・バフェットでさえ借金はしません。そして、最初にリスクを取って数億円の寄附をして社会福祉法人をつくり、給料、退職金を制限し、問題があった時には、理事長等の経営者の責任であるとのことでは、経営者のモチベーションが高まることはあり得ないでしょう。経営者は雁字搦めの規制を嫌います。ある一定の規制は必要としますが、雁字搦めの規制は共産主義国家と同じです。そのことをよく考えて法制度を作らないと、介護の質も介護で働きたいと思う人財も、施設を造りたいと思う経営者も出て来ないと私は思います。そして、最後に最も大切なことを申し上げたいと思います。
今後、介護職として働きたい人財が増えるような制度を作っていくことが最重要です。そのためには現在働いている職員や経営者のモチベーションを高めることが必要です。地域包括ケアシステムをこれから国は進めて行こうと考えていますが、介護職(ヘルパー)として働く人財がいなくてこのシステムは成り立つのでしょうか。これだけ人財不足になると(限界点を既に超えてしまった。これは、介護職としてのやりがいや魅力を伝えず、6年前にNHKがクローズアップ現代で3K4Kと言って結婚もできない業種であると批判した。)介護サービスを利用することが出来ず、自分の親はあなた自身が最期の看取りまで介護をすることになります。その心構えや覚悟があなたに有るかを問いたいと思います。