人手不足とモチベーションについて

第2回兵庫県・青森県福祉研究交流会

日時 平成29年7月7日(金)~8日(土)
会場 ANAクラウンプラザホテル神戸

まず最初にこれから社会福祉法人に想定される問題について考えたいと思います。

今現在起きている一番大きな問題は、人手不足についてであります。すべての社会福祉法人が人手不足について大変悩んでいると思います。これから20年30年先においても福祉関係の業界においては、人手不足が続くと考えられます。この問題の第1の大きな原因は、介護業界の魅力を伝えず、介護業界及び介護で働いている人の仕事のつらさや給料の安さや社会福祉法人の不祥事等を大々的に報道したマスコミ等にあります。今後介護業界で自信と誇りをもって働く人が集まってくるようになることはなかなか一法人でできる問題ではありません。市、県、政府、マスコミ等を動かして介護という仕事は、なくてはならない仕事で、国民から必須とされる職業であり、やりがいのある仕事であることを宣伝して頂かなければなりません。そして介護業界で働く人がいなくなったら自分の親は、自分が介護をしなければなりません。私たち社会福祉法人の経営者は、職員の給料を上げ福利厚生を充実し、誇りとやりがいを職員に持ってもらうようにしなければなりません。このようにして行かないと今後働く人は増えないと考えられます。

21年前に初めて特別養護老人ホームサンライフ御立をオープンする時に兵庫県社会福祉協議会主催の就職説明会の状況をお話ししますと、私たちのブースの前に就職説明会をオープンすると同時に2列に100人近い学生が一斉に並んだのを思い出します。パンフレットは、すぐになくなりますし、一人ひとりに施設の説明の時間がなく大変な状況でした。しかし最近の就職説明会は、私たち求人する側の参加人数の方が多く応募する学生は大変少ないのが現状です。専門学校へ行っても定員の半分ぐらいしか学生数はいなく、高校の介護福祉科においても在籍学生の3分の1ぐらいしか卒業しても介護業界で働かないところもあるようです。

なぜこのようになったのか、再度申し上げますが、それは6年~7年前にクローズアップ現代で介護職は3K、4Kで結婚もできないと放映したからです。それに呼応して、各社マスコミが報道し、介護業界に悪いイメージがつきました。日本経済新聞にいたっては、会計についての知識があるとは思えない内容の、キヤノングローバルの松山氏の論文(社会福祉法人にはたくさんのお金が残っている。)を掲載しました。マスコミは、このようなことを大々的に報道すればそれが今後社会にどのように影響を与えるかを考えて報道していません。そしてその後人手不足は、一層深刻になりました。また、私が思うに今後新しく介護施設をオープンするものはいなくなります。国は地域包括ケアと言っていますがその主たる人財はヘルパーであると私は考えていますがヘルパーも103万円の壁(税法上の扶養家族の条件)があり、長時間の労働ができず、なかなか応募しても来てくれません。これで地域包括ケアがうまく機能できるのか甚だ疑問です。

このような状況で、厚生労働省が新しいシステムをいくら次から次へと机上で作っても、実際介護現場で働く人がいない状況でこれからのもっとも厳しい10年、20年をのりきっていけるのか心配しております。福祉は、お金ではなく人が動くことにより成り立っていることを認識しておかなければなりません。

これからは、女性、高齢者の活躍が必要です。女性、高齢者が介護業界で働いてもらう方策が必要です。私はもう10年以上前から配偶者控除を無くするように言ってきました。なかなかこれが実行できません。私の法人でも毎年103万円の壁が立ちはだかっています。処遇改善で給与を上げたり、一時金を支給すれば出勤日数が少なくなるというジレンマに陥っています。

来年からは、150万円になるそうですが是非こういったものを完全に撤廃してもらいたいと考えます。

高齢者については、70歳まで働ける人は働くシステムを考える必要があります。アメリカ人やヨーロッパ人と違って、日本人は高齢でお金があっても働きたい気持ちが強くあります。その気持ちを利用した税制の施策が必要です。例えば年を取ることによって所得税の税率を下げるのです。このように高齢者であっても働く場の提供、働き方を考えて福祉業界に来て頂きたいと考えます。

次に外国人についてであります。外国人については、保育業界は大変難しいと思いますが介護、障害分野については、E.P.A(経済連携協定)や外国人の技能実習制度等により日本で働く人が増えていきます。

現在ささゆり会でE.P.A(経済連携協定)により昨年8月からベトナム人が2名働いています。2名とも優秀な人財です。最初は日本語の会話に少し困りましたが、1年ぐらいたった現在においては、あまり問題はありません。今年の8月には11名E.P.A(経済連携協定)によってベトナムから来ます。給料及び福利厚生は日本人とまったく同じなのでその他の費用がかかりますので費用的には、日本人より高くつきます。しかし費用が高くついたとしても外国人に来てもらわなければ日本の介護はもはややっていけないのが現実となりました。

厚生労働省は給料が安いことや待遇のことで、介護業界で働く人が少ないと思っていると思いますが介護業界で働く人の給料、待遇、福利厚生は年々益々上っていきます。しかし、人手不足の解消はできません。なぜならそれは、もっとたくさんの人に介護業界で働きたいと思わせるように国やマスコミ等は取り組まなければならないからです。その根本の所が抜け落ちていて給料のみを上げることによって解決できると考えるのは、間違いであります。(人は、パンのみにて生くるものに非ず)

介護業界の良い所をもっともっと国やマスコミは宣伝していかなければなりません。そうしないと最後は、自分の親は自分が介護しなければなりません。何百万年前より人間は、そうしてきたのですから。

日本において今の日本人の生活水準が将来低下します。だから若い人が年金を心配しています。厚生年金は貰えないかもしれないので、自分で積立をしていかなければならないと思っています。経済が伸びている時は、あらゆる問題が解決します。経済が止まった時、横ばいや下がりだした時はあらゆる問題が吹き出てきます。少子高齢化の少子は20年前から解っていることです。高齢化も一緒、介護保険が出来たときに、団塊の世代が80歳になる頃どういう施策を作っていくかというのを考えておかないといけません。

次に今回の社会福祉法の改正の内容についてお話をさせて頂きたいと思います。社会福祉充実残額を福祉施設や地域貢献やいろんな協議会を作って使いなさいという話ですが、私は、残ったお金をとやかく言われたくありません。介護報酬は全ての法人で同一の介護報酬であり、職員みんなで汗水たらして働いたお金です。介護報酬が高ければ介護報酬を下げればいいことです。私はそういう考え方を持っています。憲法で私有財産が保護はされているのだから残ったお金を何かに使ってほしければ役所が相談に来ればいい話です。役所が相談に来るか自分達で地域貢献事業に使うか好きにすればいいです。私の個人のお金や法人のお金を何かに使いなさいと誰が言えますか。寄付する場合もあれば美味しいものを食べるかもしれません。国が法律を作って規制を加えていくことによって、経営者のモチベーションがあがりません。

経営者のモチベーションとは何かという事を考えないといけません。経営者のモチベーションは孫正義の行動を見ていたらよく解ります。自分がしたいことをしています。イギリスのアーム(ARM)社を3兆円で買収したりトランプ大統領と会談してアメリカに約5兆7千億円を投資するとか、経営者というのは法律に違反する事やみんなに迷惑をかけること以外は自由でないといけません。そこにモチベーションがあります。それが経営者です。失敗も山ほどあるけれども成功もあります。社会福祉法人の経営者のモチベーションを今回の社会福祉法の改正はなくしてしまったというのが私の考えです。

トップの考え方が大事です。潰れていく会社というのはトップの考え方が見えない。東芝もシャープもトップがこうやるとみんなの前で話ができないとトップとは言えません。目標を示したらそれに向けてみんなが頑張ろうとなります。社会福祉法人でもトップの顔が見える社会福祉法人でないと駄目です。みんなで相談したり協議したりすることは大切ですが最後の決断、最後の責任を取るのは経営者です。社会福祉法人のあり方をよく考えていかないとこれからは、上手く行かないと思います。

モチベーションが下がる事をするのではなく、上がる事をしなければ経営者、職員も頑張りません。あれだけ新聞が悪いことばかり大々的に三面記事で掲載したら誰が介護業界で働きたいと思いますか、それが解っていて報道しているのです。悪い事は悪い事として報道したらいいのですが、しかし、介護業界の良いこともたくさん有りますのでそれも書いて欲しいというのが私の考えです。国やマスコミが考え方を変えていかなければ、介護業界で働きたいと思う人が増えないし、今の状態であれば介護へ行きたいと思う人があっても親や周りが止めるというのが現実です。専門学校へ行っても定員の半分以下です。ある高校へ行くと介護専門学科があっても3分の1しか就職しません。こんな状況でうまくやっていけるのかと甚だ心配しています。

国の考え方を変えるというのが一番。介護業界で働いている者が誇りを持ち、また、新たに介護業界で働きたいと思う人が増えるにはどうしたらいいかを、考えていかないといけないと思います。人手不足は、介護業界にとって喫緊の深刻な問題です。しかし役所は現在人手不足で苦しんでいません。彼らはお金を出せばなんとかなると思っていますが介護業界はそれだけではいけません。人間を駄目にするのは仕事もしないのにお金を与えることです。そうすると簡単に駄目になります。宝くじがあたった人の人生を見ればよく解ります。なかなかまともな人生は歩めません。汗水たらして働いたお金はたいへん尊いものです。しかし、何もないのにお金がもらえたら人間は駄目になるのは解っています。一生懸命働いて稼いだお金は尊いのです。

人手不足についてと、社会福祉法人の経営者や職員のモチベーションについて、この2点についてお話をさせて頂きました。本日は誠にありがとうございました。